ikod_ikotのブログ

ときどきハースストーンをやります。

チップ欲しガール論争

はじめに

こんにちは、ikotです。バトルグラウンドは前回の攻略記事 を書いた後にバディ環境が好きになれずにしばらくお休みしていたんですが、バディが去った今期はやる気が出て、こつこつレートを上げて先日NAで11000まで到達出来ました。

自分はプレイよりも配信を観たり考察する方が好きなタイプのHSファンなので、今回は攻略はあまり関係なく、バトルグラウンドにアップデートで追加されて以来巷を騒がせている、あるグレード1のミニオンについて紹介したいと思います:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間違えました、こっちです:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チップ欲しガールです。余った1コインだけを+1/+2(ゴールデンなら+2/+4)のテンポに変える無種族ミニオンで、1回の発動で3/4、2回で4/6という感じにスタッツが増加していきます。

 

先月のロビーレジェンド大会中に発表された際、個人的な第一印象は「テンポ系ヒーローの早上げで使いやすそうなミニオンかな」とかなり肯定的でした。…が、実装されてみると世間の評価は「絶対に取らない」「1リロールした方がマシ」「強いのは初心者卓だけ」、挙げ句の果ては「これ取る人はバトグラのセンス無い」とぼろっかすな評価でした。そのうち次第に「(特定のヒーロー)なら取れる」「(特定の状況)なら悪くはない」という再評価も時々は目にする様になりましたが、それでも中〜上級者では「まず取ることはない」という評価が今も多い気がします。

根が天邪鬼なのでそこまで言われるなら強いところを探してやろうと最近はこの欲しガールを上手く使った動きをずっと考察しているのですが、バトルグラウンドの様なゲームの難しいところは、こういった意見がわかれるミニオンが結局強いのか弱いのか、取るべきか取るべきじゃないか、明確な結論は出ないという点です。HSReplayなどのデータは参照出来ますが(有料サービスなのでここでは伏します。利用されている方は是非欲しガールの各ターンでのプレイインパクトを確認してみてください)、統計データには常に誤謬がつきまとうので、正しく意味付けを行うのは非常に困難です。更に個別のゲームではなく長期的なレートの上げ方を観た時、明確なミスプレイを除けば結局どういった状況ならそのミニオンを取るかは個々人のプレイスタイルに依るという「人ぞれぞれ」論にしか落ち着き得ません。

 

そこでこの記事では僕の主観は後述の考察に留めて、まずは直近のバトルグラウンド最高峰の大会であるロビーレジェンド「炎のまつり」本戦でのチップ欲しガールの活躍についてまとめてみようと思います。トッププレイヤー達も使ってる=使えるミニオン と短絡的に言うのはやはり非常に危険ですが、「意外とピックされてるんだなぁ」と感じる人も居るんじゃないでしょうか。居て欲しいな。

 

ロビーレジェンドでの活躍

ロビーレジェンド本戦は決勝戦進出の8名を決める為にA、B 2ブロックで計6ゲームが行われ、チェック制の決勝戦は今回は7ゲームで優勝者が決定しました。

これらのゲーム全体を通して、欲しガールは以下のヒーローでピックされていました。(※大会の配信は頻繁にカメラが切り替わるため、正確に何ターン目にピックしたかは不明なものも多いです。)

 

Aブロック1ゲーム目

KidFive選手 (テス 4コイン目でピック) → 最終1位

Aブロック2ゲーム目

Alucard選手 (ロカラ 3または4コイン目でピック) → 最終3位

Aブロック3ゲーム目

(なし)

 

Bブロック1ゲーム目

DaPeeDou選手 (レディ・ヴァッシュ 3または4コイン目でピック) → 最終8位

XunYu選手 (ヴォルジン 3または4コイン目でピック) → 最終5位

Ribapusa選手 (ガラクロンド 3〜6コイン目のいずれかでピック) → 最終4位

Bブロック2ゲーム

Ribapusa 選手 (ゼフリス 3コイン目でピック) → 最終5位

DaPeeDou選手 (レディ・ヴァッシュ 3または4コイン目でピック) → 最終8位

Bブロック3ゲーム目

(なし)

 

決勝1ゲーム目

Butterfly選手 (灰枝 3または4コイン目でピック) → 最終5位

決勝2ゲーム目

KidFive選手 (ビグルスワース 3または4コイン目でピック) → 最終7位

決勝3ゲーム目

Satellite選手 (フィンレー(チケッタス選択) 3コイン目でピック) → 最終3位

決勝4ゲーム目

(なし)

決勝5ゲーム目

Butterfly選手 (テス 3コイン目でピック) → 最終8位

決勝6ゲーム目

MXJF選手 (フィンレー(ヴァッシュ選択) 3コイン目でピック) → 最終1位

決勝7ゲーム目

(なし)

 

13ゲーム中12回のピック、平均順位は4.8位ということですね。次の節では、簡単にこれらのピックについて解説してみようと思います。

 

解説

1ゲームで8人の選手がプレイしている訳ですから、トッププレイヤーでもだいたい8ゲームに1回程度ピックを考慮するタイミングがあると言えそうです。どうでしょう、結構取るんだという印象のプレイヤーも多いのではないでしょうか。気になるのは平均順位が4位を割って低めなことで、色々意見もあるのですが、「いやいやこれはね…」と反論し出すと主観が大いに混じってしまうのでここではちょっと控えます。ひとつだけ主意見を挙げるとすれば、欲しガールを絶対にピックしないタイプのヒーローの方が全体的にずっと強いだろうとは僕自身も考えています。どちらかというとこれらの強ヒーローと弱ヒーローの格差を緩和する駒なのではないでしょうか。

 

もうひとつ、これは本当に考察でもなんでもなく感想ですが、こうやって使い方を考えるのは楽しいんですが、実際のゲームの中でミニオンとして面白いか面白くないかで言えば個人的にはかなりつまらないミニオンであり、実際の強い弱いは全く置いておいて調整なり削除なりが必要とも思っています。というのも、上のデータでもわかる通りこのミニオンの1枚目は条件が整った3or4コイン目以外では絶対に取ることがないからです (Ribapusa選手のガラクロンドでのピックのみ盤面が映らなかったので断言は出来ませんが、ほぼ間違いなく3か4コイン目でのピックでしょう)。他の1グレードミニオンはスタッツで追いつけなくなっても種族やシナジー、テックカードとして何らかの役割を中盤以降に見出せるパターンはあります。長ですら、緊急時の挑発として終盤の最後の1枠に差す事がままあります。チップ欲しガールは5コイン目以降、本当に何の役割もなくただの酒場のハズレ駒なのです。プレイ体験として、ここは絶対に何らかの上手い調整が必要な部分でしょう。この点で不満が多いのは非常に納得出来ます…

 

…と、愚痴は置いておいて、上のピック状況のうちのいくつかをゲーム進行を元に少し解説していこうと思います。

 

 

 

 

Aブロック1ゲーム目、KidFive選手のピックはこの盤面。

テスは欲しガールとかなり相性が良いヒーローだと言えます。というのも、テスは無理に周りに追いつかなくても耐えればいずれトリプルや高グレードミニオンを盗めるので、それまでしっかりテンポを取ってライフを守る事が大切だからです(KidFive選手もこの試合、7コイン目でグレード2に滞在しています)。くわえて1コストのヒロパは毎ターン使う訳ではなく、しかし使うTには必ず使わなければならない…という性質からコインカーブがくずれがちなので、欲しガールはこのカーブの歪みを緩和する役目を持ちます。

決勝5ゲーム目のButterfly選手も同様にテスでの欲しガールピックでしたが、グレード4早上げ直後にシャダウォックに当たったのが不運で、ライフが持ちませんでした。

 

 

 

 

 

同様に「耐える系」ヒーローは概ね欲しガールとの相性が良い印象がありますが、特に有名なのはゼフリスで欲しガールのペアを取る戦略です。Bブロック2ゲーム目、Ribapusa 選手がこれに成功しています。

ここからラファームカーブで7コイン目にグレード3に到達すると、そのまま必ず1コイン余らせながらグレード5または6発見まで直行する事が出来ます。この1コインによる欲しガールのバフで、盤面の強さをある程度保ちながらいわゆるガールによるキャリーを行えるのがポイントです。このゲームではRibapusa選手は運良く自力で欲しガールのトリプルを作れていたので、9コイン目ダブルグレード5発見で一気にスイングを狙う事が出来ました。

こう見ると欲しガールは一見1コインで+1/+2のヒロパ(あまり強くはありません)の様に見えますが、ここに本来のヒロパが加わる点が大切ですね。後半強いヒロパのヒーローが、前半を補う控えめなヒロパを得られるイメージです。決勝2ゲーム目KidFive選手のビグルスワースでのピックや、決勝3ゲーム目Satellite選手のチケッタスフィンレーでのピックもこの使い方にあたると考えられます。

 

 

 

 

 

別のタイプで比較的欲しガールと相性の良さそうなヒーローも存在しています。Aブロック2ゲーム目でAlucard選手がピックしたロカラが一例ですね。

ロカラはヒロパが0コインなので、通常カーブ以外だとかなりコインカーブが歪になります。序盤から育てられ非常に相性が良いワンワンロボが初手に見えてますが、このまま4コイン目グレード上げで通常カーブ進行するとせっかくのワンワンロボを売らない限り5コイン目の動きがとても悪くなってしまいます。この問題を解決してロカラでラファームカーブを描きながらワンワンロボやその他1グレミニオンを序盤から育て、しかも毎ターン余る1コインを無駄にしないという欲しガールの使い方は、理想的だと言えます。この様に0コストヒロパでテンポに寄与出来るヒーローは、欲しガールラファームカーブでグレード1を長く回れる…のですが、いつでもこの動きをしてもダメで、酒場のラインナップ等からグレード1に滞在する意義もよく考えないといけません。個人的には、アラキアの様な序盤テンポが非常に強いヒーローであればラファームカーブから6コイン目に1ピックせずに2リロールしてでもトリプルを確定させ、そのままヒロパ+欲しガールの合わせ技のテンポで早上げするルートなんていうのもあるんじゃないかと思って現在研究中です。

 

 

 

 

 

一方で波紋を呼んだのがDaPeeDou選手のレディ・ヴァッシュでの欲しガールピック。Bブロック1ゲーム目&2ゲーム目の二連続でこの動きを選択しています。

また決勝6ゲーム目MXJF選手も、ヴァッシュフィンレーで同様のピックを行いました。

余った1コインを元々のヒロパで補える1コインヒロパ系のヒーローは元来欲しガールとは相性が悪いと思っていたので、この動きには驚きました。この後DaPeeDou選手は1ゲーム目は5、6、7コイン目の連続グレ上げによって9コイン目で早くもグレード5に到達。2ゲームは逆に7コイン目までグレード1を回り割と通常のペースでのグレード上げとなっています。

なかなかピックの意図を完全に読み取る事が出来ませんが、僕が気づいた点はヴァッシュのヒロパはグレード1だとかなり弱いということです。なので必然早めにグレード2に上げて通常カーブで動きたいのですが、そうすると1コイン余るタイミングが7コイン目まで存在せず、結局バニラヒーローとしての立ち回りにしかなりません。これはグレード5まで上げられれば強いヴァッシュの序盤の大きな弱点と言えます。そこで欲しガールを1T目に差しておくと、(1)5コイン目に1ピック+ヒロパ+欲しガールバフの動きでヒロパの代わりに欲しガールを利用したラファームカーブに移行する選択肢 と、(2)強めのグレード1ミニオンが居ないならそのまま通常カーブに移行する選択肢 のふたつが取れることになります(MXJF選手は後者でした)。

今回は残念ながらDaPeeDou選手は2ゲームとも8位でしたが、2選手が採用している動きということは意外と安定しているのかもしれません。僕もピック機会があれば、もう少し試して実験してみようと思います。

 

 

 

 

 

最後に、こういうシーンでは欲しガールをピックしてはいけないという例も、大会で実際にピックされなかったケースとして二つ紹介しようと思います。

一つ目はAブロック3ゲーム目のhoninbo7選手のプレイ。欲しガールのペアを完全にスルーしています。

初心者には「ロードバロフはコインが沢山使えるから欲しガールを鍛えられて相性が良い」と思ってしまう人も居るかと思いますが、根本的に使い方を間違えていて非常に危険です。欲しガールはあくまでもカーブ上どうしても余ってしまうコインを無駄にしないためのミニオンであり、決してわざわざ1コインを工面してバフするミニオンではありません。自分はむしろ5/8や6/10程度の欲しガールをさっさと捨てられる(=コインを無駄にし過ぎずにちゃんと将来性のある盤面に移行出来ている)と、うまく使えたなと安心します。ロードバロフは特に賭けで当てたコインと1コインヒロパで全ヒーローの中でもトップクラスに無駄なくコインを使用出来るヒーローなので、欲しガールとの相性は最悪と言っても良いかもしれません。

もう一つも、同じくAブロック3ゲーム目でのoliech選手のプレイ。

1T目に2コイン3/4として使える欲しガールはザイレラと相性が良いという印象があるかもしれませんが、ここでoliech選手は貝殻蒐集家を3コインで通常ピックしています。これは序盤のザイレラは実は4コイン目以外コインを余らせることはほぼないという特性を踏まえてのプレイでしょう。貝殻蒐集家から貰える1コインで4コイン目は1ピック+ヒロパの合計5コインで動けることは確定しており、一方で欲しガールをピックしてしまうと次ターン4/6にはなるものの1ピックしか出来ません(テンポ面もほぼ同じか少し弱いぐらいです)。そして欲しガールを序盤育てるタイミングは、以降はせいぜい6コイン目の1回分の可能性があるだけ。結局貝殻蒐集家をピックしたルートに比べ、雇用ミニオンを一つ減らして得たものは6コイン目の+1/+2チャンス程度となってしまうことがわかります。トリプル確定からの早上げルートも、ザイレラは1売りヒロパでかなり柔軟にテンポを保てる点も大きいです。(※これはあくまで貝殻蒐集家が欲しガールより優先される、という話で、横が弱ければザイレラで欲しガールピックも妥協出来る選択肢にはなります)。

 

おわりに

「色々紹介してくれたけど、結局欲しガールって取るべきなの?」と聞かれると、繰り返しになってしまいますが非常に細かく別れたケースと、そして人に依るとしか言えません。

上の解説の通り一応僕の中での簡単な指針は

  • ヒロパでコインの小回りが効くヒーローなら絶対取らない。
  • 5コイン目以降は絶対に1枚目を取らない。
  • 序盤にヒロパのないヒーローと、0コストや常在ヒロパのヒーローなら検討出来る。
  • 検討出来るヒーローでも無条件には取らない。
  • ヴァッシュで使えるというアヤしい情報。

ぐらいにまとめられますが、こんなものは一個人のざっくりとした方針であって状況と得意/不得意なプレイによっていくらでも変わります。最終的にレートが上がり続けるならどんなプレイでも正解です。本来チップなんて、あげたい人が無理のない範囲であげるべきであり、それはバトルグラウンドでも同じなんでしょう。

 

実はこの記事で本当に伝えたかったことは、欲しガール自体がどうこうというのもありますが、それ以上にたった1体の、それもつまらないグレ1ミニオンの、その裏にすらこれだけ豊かな戦略とアイディアの余地があるんだということ、そしてロビーレジェンドの様な超上級者の大会の観戦は大きな学びのチャンスだということです。たしかに各ヒーローやミニオンごとにざっくりとした「こうすれば勝ちやすいよ」という"攻略法"は存在しますが、それだけでがんがんレートが上がるほどこのモードは単純ではなく、それ故に難しく、奥深く、面白いです。自分だけの考察と戦略で、自分自身をビルドしていく楽しみがあります(それは構築やその他のモードも同じ筈です)。「Twitterや攻略記事で見かけたから」「配信者が言ってたから」というだけで各ミニオンやヒーローを常に強い/弱いと決めてしまうのは、あまりにもったいないんじゃないでしょうか...上級者同士の駆け引きから学んだり新しい動きを試行錯誤することで、いくらでも新しい発見がある筈です。

ぜひ楽しみながら、みんなでバトグラ道を極めていきましょう! ikotでした!

 

※ 記事中、大会の画像はTwitch内のHearthstone公式チャンネルであるplayhearthstonejp(

https://www.twitch.tv/playhearthstonejp)より引用させて頂きました。

※※ 数字や解説内容が正確かあまり自信はないので、もし何か指摘があれば気軽にコメントか紹介ツイートにご返信ください。特にレディ・ヴァッシュの動きにもっと良い解説があれば嬉しいです。